インパール 高木俊朗 文春文庫 ★★★★☆
私の祖父は、「史上最悪の作戦」、インパール作戦で死んだ。
私は、戦争からは程遠い豊かな時代に育ったが、戦場での体験を直接本人の口から聞くことができた最後の世代だった。
この無謀な作戦を強行した愚将、牟田口廉也中将。
「大東亜戦争は、いわば、わしの責任だ。盧溝橋で第一発を撃って戦争を起したのはわしだから、わしが、この戦争のかたをつけなければならんと思うておる」と口ぐせのように言っていたという。
ほとんどの部下は反対した。だが、
いったん、命令となって下達されば、どのように反対であり困難であっても、それに従わなければならない。命令は『天皇陛下のご意志』で、絶対である。それが、日本軍の規律である。
戦争とは、そういうものなのだ。
命令に背けば、軍法会議にかけられ、死刑となる。
それでも、実際に、命令に抗って戦線から撤退した師団長もいた。その点については、同じ著者の『抗命』に描かれている。
牟田口は、東京裁判で罰せられることもなく、1966年までのうのうと生きた。
最初の単行本『イムパール』が出版されたのは1949年だから、よくぞ書いたものだと思う。
抑制されたトーンで書かれてはいるが、著者の牟田口に対する激しい義憤を感じずにはいられない。
本書には多くの軍人が登場するが、(牟田口を除いて)登場人物のキャラクターがわかりにくいのが難点だ。それは、今となっては、軍隊という組織になじみがないことが原因かもしれない。
だが、著者は、実際に多くの将校に会って話を聞いている。そればかりか、本書に登場する佐間連隊長や長中尉とは酒を酌み交わした仲なのだから、これは生きた記録なのだ。
こんな時代だからこそ、こういう歴史があったことを語り継いでいかなければならない。それは、日本人の責務だろう。(20/01/05読了 21/02/27更新)