雨天炎天 ーギリシャ・トルコ辺境紀行ー 村上春樹 新潮文庫 ★★★☆☆
1988年、バブルの華やかなりし頃、村上春樹がギリシャのアトス山を歩き、トルコの国境沿いを車で一周した旅の記録。
行き先のチョイスは、なかなかマニアック。トルコの辺境に聳えるアララト山に登ろうと思っていたので、期待して読んだが・・・。
村上春樹は、イスタンブールの眺めは「見ているだけで心寒くなる」、ヨーロッパ側トルコ、トラキア地方は「退屈で面白味のないところも東欧的」とコキ下ろす。
ソ連・イラン・イラク国境方面の東部アナトリア、中央アジア的トルコは「一番ひどい」。もちろん、ソ連との国境は、現在ではグルジアとアルメニアとの国境だ。左右の目の色が違う、ヴァン湖の「ヴァン猫」は実在するらしい。
シリアとの国境の中部アナトリア、アラブ的トルコは、石油を運ぶタンクローリーだらけの、これまたひどいところだ。だが現在は、訪れることもままならなくなってしまった。
地中海・エーゲ海沿岸地方は、美しいが、ドイツ人観光客だらけで、わざわざ訪れるほどの場所ではない。
というわけで、村上春樹のイチオシは、黒海──カラデニズ──沿岸なのだ。確かにここは、ガイドブックでも一番端に追いやられ、車で一周しようなどと酔狂なことを考えない限り、誰も訪れようとは思わないところだろう。
でも、その黒海沿岸にしても、訪れてみたいと思わせるような魅力的な描写はただの一つもないのであった。
最初から最後まで、一貫してこれほど盛り上がらない紀行文も珍しい。
村上春樹は、一体何をしたかったのだろう?(20/02/01読了 20/03/06更新)