読書日記 2020年

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パンデミックを阻止せよ! 浦島充佳 化学同人 ★★★★☆

スペイン風邪(1918年)、エボラ出血熱(1976年)、エイズ(1981年)、鳥インフルエンザ(1997年)、ニパ脳炎(1998年)、西ナイル熱(1999年)、SARS(2003年)、新型インフルエンザ(2009年)、MERS(2102年)・・・。人類はこれまでに、数多くのアウトブレイク/パンデミックを体験してきた。
だから、新規の感染症が発生したときにどのように対処すべきかというノウハウは、すでに多くの蓄積があった。本書を読めば、テレビで見かける「専門家」の人たちがなにを目指していたかがよく分かる。
今回の未曾有の事態は、これまでの「成功体験」に引きずられて起きた・・・ように思えてならないのだ。

とりわけ参考になったのは、2003年にパンデミックを起こしたSARS(severe acute respiratory syndrome、重症急性呼吸器症候群)の事例である。
新型コロナウイルスは、決して「未知のウイルス」なんかではない。SARS-CoV-2という(無機質の)名前が示す通り、それは、SARSの原因であるSARS-CoVとよく似たウイルスなのだ。しかも、どちらも同じACE2を標的としているから、感染の分子機構もすでにわかっている。
SARSは、キクガシラコウモリを自然宿主とし、野生動物市場で売られていたハクビシンを中間宿主としてヒトに感染した。コウモリから新規のコロナウイルスがヒトに感染し、パンデミックを引き起こす危険性はすでに指摘されていたのだ。今回の事態は、決して想定外ではなかった。

2002年11月、中国広東省の野生動物市場を発生源とする謎の肺炎が発生。しかし、中国CDCはその事実を隠蔽、感染は香港からベトナム、シンガポール、カナダへと飛び火していった。──どこかで聞いたような話だが、これはSARSの事例である。
世界の何箇所かでクラスターが発生したものの、やがてSARSは終息傾向を見せ、2003年6月の台湾での入院患者を最後に新規の患者は現れなくなった。WHOは2003年7月にSARS終息宣言を出し、8422人の感染者と916人の死者を出したSARSは、地球上から姿を消した。人類は、8か月でSARSを封じ込めることに成功したのだ。
そのときに比べて、ゲノムデータの解析手法は圧倒的に進歩した。
にもかかわらず、なぜ、こうなってしまったのだろう?

160頁のコラム、イースター島についての記述:1722年にオランダ人探検家が発見したとき、「動物も人も住んでいない不毛の地であった」というのは誤り。(20/04/08読了 20/04/16更新)

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