ペスト大流行 村上陽一郎 岩波新書 ★★★★☆
ペストそのものについてというより、ペスト(黒死病)が中世ヨーロッパに何をもたらしたかについて論じた本。
中世ヨーロッパというのは、個人的には、人類史において最も理解しがたい地域・時代だと思っている。文化的にも、教会建築以外はなんら見るべきものもない暗黒時代だ。
1347年にヨーロッパを襲った黒死病が、わずか5年の間にヨーロッパ全人口の3分の1を死亡せしめるほど猖獗を極めたのは、中世ヨーロッパの後進性によるものではないかと思うのだ。(当時のペスト菌が、現在のペスト菌と遺伝的には何ら変わらないことは証明されている。)
当時、黒死病の原因は、大気の腐敗や、占星術(惑星の配置の悪さ)、地震による有害物質の放出などに求められていた。
それほど多くの人が次々に斃れていったら、ペストが人から人へと伝染することはほとんど自明のように思われる。だが、それすら理解されていたのか怪しいのだ。患者を「隔離」するという発想は、大流行が始まってから数十年経つまで出てこなかったようである。
その一方で、ユダヤ人が井戸に毒を入れたなどというデマが流れ、ユダヤ人に対する激しい迫害が起きたという。どこかで聞いたような話ではないか。
コロナ禍の今こそ、世界が連帯しなければならないのに、ますます分断の度を深めているのを目の当たりにすると、600年以上経っても人類は大して進歩していないことを思い知らされる。(20/07/23読了 20/07/28更新)