読書日記 2020年

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日韓 ソウルの友情 司馬遼太郎・田中明・渡辺吉鎔・鮮于煇・千寛宇・金聲翰 中公文庫 ★★★★☆

これは、貴重な記録といえるだろう。
この対談が行われたのは1984年である。参加者は、日本側から2名、韓国側から4名。そのうち、渡辺キルヨン先生が1944年生まれで一人だけ若く、司馬遼太郎を含む他の5名はみんな1920年前後の生まれである。
だから、もろに「日帝三十六年」時代に育った世代なのである。
この対談が日本語で行われたことを思うと慄然とする。つまりは、支配した側と支配された側が、支配者の言語で行った座談会なのだ。

本書を読むと、日韓関係の難しさがよくわかる。
李氏朝鮮はゴリゴリの儒教国だったから、日本を野蛮な国として蔑んでいた。だが儒教とは、好奇心に蓋をするような固陋な体系である。李氏朝鮮は延々500年も続いたが、儒教の呪縛が、結果的に国を滅ぼすことになった。
儒教は、家系を重んじる。「姓を変えたら犬の子」という言葉さえあるという。その朝鮮に対して日本が強要した創氏改名というのは、世界の植民史上でも例のない暴挙だったのだ。
座談会では、一人だけ世代の違う渡辺キルヨン先生が、儒教に対して否定的なのが面白い。

当時、韓国は近くて遠い国だった。
今では想像できないほど、日韓関係は微妙だっただろう。「日韓 ソウルの友情」というタイトルも、掛け値なしのものだろう。
私が初めて韓国語を習おうとした1990年代初頭は、まだ韓国語のテキストはほどんどなかった。
初めて韓国を訪れた1996年、日本文化はまだ解禁されていなかったが、ネイティブと同じように日本語を話すお婆さんに会った。今、日本語で教育を受けた世代は、存命ならもう100歳近いことになる。
今日では、日韓の距離は驚くほど縮まった。しかし、政治的にはより一層ギクシャクしているし、ネットには悪意に満ちた罵詈雑言が溢れている。
今こそ、本書を読み直してみるべき時ではないだろうか。(20/08/27読了 20/08/31更新)

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