JR上野駅公園口 ★★☆☆☆ 柳美里 河出文庫
オビの「全世界が感動した、「一人の男」の物語」は、いくらなんでも盛り過ぎでは・・・。
東北の玄関口・上野は、昔も今も、トーキョーの華やかさとは異質の哀愁を纏っている。主人公は、フクシマ出身のホームレス。
というと、舞台装置は秀逸なようだが、主人公にちっとも感情移入できなかった。彼はなぜ、故郷を捨ててホームレスになる道を選んだのか?
場面がめまぐるしく変わり、読みにくい。孫娘が津波に飲まれるシーンも意味不明。
ホームレス、天皇制、三・一一、そして1964年と2020年の2回の東京オリンピック。色んなテーマが詰め込まれている。
多くの人々が、希望のレンズを通して六年後の東京オリンピックを見ているからこそ、わたしはそのレンズではピントが合わないものを見てしまいます。
「感動」や「熱狂」の後先を──。
この小説は、2020東京オリンピックに対するアンチ・テーゼという側面もあったのだろうが、こんな状況になってしまった現在では、あらゆる問題が矮小に見えてしまう。まさに、「事実は小説よりも奇なり」だ。(21/07/01読了 21/07/04更新)