読書日記 2021年

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密教 ★★★★☆ 松長有慶 岩波新書

小著ながら、とても詳しい密教の入門書。
いきなり本書を読んだらすぐに投げ出したくなったかもしれないが、『空海の風景』を読んでから本書を読めば、なるほどと納得できる箇所が多々ある。

すっかり定着した「三密」という言葉だが、これは本来は密教用語であり、「三つの秘密」ということだ。
それは、「印契(いんげい)」mudrā、「真言」mantra もしくは「陀羅尼(だらに)」dhāraṇī、そして「三摩地(さんまじ)」samādhi であり、それぞれ身体的な働き、言語的な働き、精神的な働きを意味する。三摩地は「三昧」という字を当てることもある。「読書三昧」などというときの「三昧」だ。

なるほど、現在、生きた宗教として密教が残っているのは、日本とチベット周辺地域だけだという。
密教の法は経を読むだけでは会得できず、師匠(阿闍梨)から弟子へと直接相承されていくものだ。チベット仏教こそが本物の仏教であり、日本仏教は堕落しきっていると思っていたけど、空海の打ち立てた密教が千年以上の長きにわたって連綿と受け継がれてきたことは、実は驚くべきことなのではないかと思った。

もっとも、チベットの密教はインドの後期密教が直接伝わったものであるのに対し、日本密教はインドの中期密教が中国を経由して伝えられたもので、かなりの変容を遂げている。
本家のインドで密教(というより仏教全般)が衰退してしまったのは不思議だが、仏教の中にヒンドゥーの神さまがたくさん入り込んでいるのは面白い。

密教は神秘主義的なところもあるし、ヨーガ(瑜伽)による実践を重視するから、現代人のメンタリティにむしろ合いそうな気がする。
コロナ禍の今、人々は宗教を求めているようにも思う。現代日本において、密教が、「衆生の救済」という本来の役割を果たすのは難しいのだろうか?(21/07/10読了 21/07/11更新)

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