思い出袋 ★★★☆☆ 鶴見俊輔 岩波新書
本書を知ったのは、『間違いだらけの文章教室』で名文の例として挙げられていたからだ。
岩波書店の『図書』に毎月連載された短文を集めたもの。著者が80歳のときから7年にわたって書き続けたというから凄い。
著者は母親から悪い子だと言われ続け、折檻されて育ったという。不良少年となり、中学2年のときに放校になった。(この辺の具体的な記述は本書にはない。)
国会議員だった父のはからいで、1937年、15歳で単身米国に渡る。その後、日米開戦のために捕虜となって収容所に入れられ、1942年、20歳のときに、日米交換船に乗って日本に戻った。そのときにはすでに、「自分が日本国籍をもつから日本政府の決断に従わなければならないとは思わなかった」と考えていたという。
それから、戦後日本を代表する知識人になったわけだから、数奇な人生だ。
原稿用紙3枚ほどの短い中に一つのストーリーを入れ込んで完結させるには、熟練の技が必要だろう。
一回の読み切りとしては良いのかもしれないが、本としてまとめられると、内容の重複が多いのが気になる。
それから、『間違いだらけの文章教室』の高橋源一郎の読みが実に深い。普通に読むと、それほどの名文とは気付かずに軽く読み流してしまう。個人的には、そこまで深く鑑賞できないなぁ。(21/08/07読了 21/08/16更新)