魅惑と驚きの「数」たち ★★★☆☆ イアン・スチュアート SBクリエイティブ
数には個性がある。個々の数を取り上げ、その特徴について解説したこの手の本は数多くあり、昔から読み漁っていた。
本書は、整数や実数だけでなく、「0章」「1/2章」「π章」「-1章」「i 章」などを設けて数の体系がどのように拡大されていったかということについても解説している。とはいえ、内容は基礎的で、どこかで聞いたことのある話題がほとんどだった。
その中で、「ソーセージ予想」が興味深かった。それで、少し調べてみたところ、本書の記述は間違っていることが判明した。
球を並べてその「凸包」の体積が一番小さくなるようにする方法は、球の個数が56個以下だとソーセージ形だけれど、57個になるとそうでないことが証明されている(P.329)
とあるが、これは正しくない。正しくは
球の個数が55個以下だとソーセージ形だと予想されている。56個になるとそうでないことが証明されている
である。
ソーセージ予想(sausage conjecture, Fejes Tóth, 1975)
n個の球を並べて、表面積が最小になるようにラップで包む(これを凸包、convex hullという)。このとき、ラップで包まれた空間の体積が最小になるような球の配置はどのようなものだろうか?
まず、2次元で n = 3 の場合を考えてみよう。円の半径を1とすると、3個の円を直線状(ソーセージ状)に配置したときの面積は、
π + 8 = 11. 14159
となる。一方、3個の円を三角形に並べた場合は、
6 + π + √3 = 10.87364
となって、こちらのほうが小さい。
ところが、同じことを3次元の球で考えると、ソーセージ配置のほうが三角形配置よりも体積が小さくなる。
ソーセージ: (3/4)π + 4π = 16.75516
三角形: (3/4)π + 3π + 2√3 = 17.07767
では、もっと高次元(次元d)の球を考えたらどうなるだろう?
d ≥ 5 のとき(5次元以上の世界)は、いかなる n に対しても、あらゆる配置の中でソーセージ配置が最善(体積最小)だろう、というのがソーセージ予想である。ただし現在のところ、ソーセージ予想は d ≥ 42 に対して成立することしか証明されていない。
それでは、3次元と4次元の場合はどうだろうか。
実は、この場合は絶望的に複雑になる。ここにも、3次元と4次元の特殊性が現れるのだ。
d = 3, 4 の場合、n が小さいうちはソーセージ配置が最善であり、n が大きくなるとそうでない配置が最善になると予想されている。
もっとちゃんというと、「n < kd のときはソーセージ配置が最善であり、n = kd のときはそうでないような kd(d = 3, 4)が存在する。n > kd に対しては、有限個の n を除いてソーセージでない配置が最善になる」ということだ。
現在のところ、(3次元の場合)k3 ≤ 56 が証明されている。そして、k3 = 56 と予想されている。つまり、球の数が55個以下ならソーセージ配置が最善だが、56個はそうでない。
n = 56 および n ≥ 58 のとき、ソーセージ配置よりも体積の小さい別の配置が存在することが証明されている。ただし、その配置が具体的にどのようなものであるかはわかっていない。それは平面的な配置でない(つまり、3次元的な丸っこい形状をしている)ことはわかっている。また、n = 57 のときも、ソーセージ配置が最善だと予想されている。
4次元の場合は、 k4 < 375,769 であること、ソーセージ配置以外の最適な配置は2次元でも3次元でもないこと、しかわかっていない。
参考文献
Gandini P. M. & Wills J. M. (1992) Math Pannon 3: 19-29.
Henk M. & Wills J. M. (2021) Beitr Algebra Geom 62: 265-280.
(23/02/08読了 23/02/10更新)