読書日記 2023年

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第三次世界大戦はもう始まっている ★★★☆☆ エマニュエル・トッド 文春新書

2022年に勃発したロシアによるウクライナ侵略戦争について、ロシア側の論理を説明した本。
著者はフランス人だが、反米・反EU。同意できない点もあるが、多面的な視点を提供してくれるという点で、読む価値はある。

著者が「第三次世界大戦」という言葉を使うのは、この戦争は、実際には米国とロシアの戦争―米国によるウクライナでの「代理戦争」―だからだ。
ウクライナの裏で米国(とNATO)が糸を引いている、ということはみんな知っている。著者曰く、米国や西欧の主張はまったくグローバルではなく(この点は完全に同意する)、むしろ世界の嫌われ者である。よって、今回の戦争でロシアを支持する国は多いだろう、という。

著者曰く、ウクライナは破綻国家であり、3つの地域に分断されている。
西部は「ほぼポーランド」であり、ロシアはこの地域に興味はない(ポーランドが併合するかもしれない)。キエフを含む中部はロシアが「小ロシア」とよぶ地域で、ここが狭義の「ウクライナ」である。そして南部・東部は、ロシアが「ノヴォロシア(新ロシア)」と呼ぶ、ロシア語話者の住むエリアだ。ウクライナは貧しい国だが、最も発展しているのは実は南部・東部地域である。
2014年、親露派のヤヌコビッチ政権が(プーチンのいうところの「ネオナチ」による)クーデターによって倒され、親EU派の政権ができた。その後、米国や英国はウクライナ軍に高性能の兵器を大量に送り、軍事支援を行った。そのためロシアは、米国によるウクライナの武装化がこれ以上進む前に、「手遅れにならないうちに」ウクライナ軍を叩き潰すことを決意した――。だから、今回の戦争の責任は米国と西欧(NATO)にある、という。
しかし、このロジックで行くと、あらゆる侵略戦争は正当化されることになってしまう。

2014年の段階で、ロシアはクリミアを併合し、ドンバス地方は親露派によって実効支配されていた。とすれば、ロシアの目的はすでに達成されていたようにも思える。
なぜロシアが侵攻に踏み切ったのか、やはり理解できない。(23/02/12読了 23/02/19更新)

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