民族問題 ★★★☆☆ 佐藤優 文春新書
初めて佐藤優の著作を読んだが、著者は相当に博識。
同志社大学の講義をまとめたもので、アンダーソンの『想像の共同体』、ゲルナーの『民族とナショナリズム』といったナショナリズム論の古典的著作を取り上げて解説している。著者の文章自体は読みやすいのだが、引用されたテキストが難解でわかりにくい。
ソ連の民族政策の話が面白かった。
ソ連は、共産主義というイデオロギーによって支配された国であり、ロシア人が異民族を植民地的に支配していたわけではない。だからこそ、グルジア生まれのオセット人であるスターリンが、独裁者として君臨できたのだ、という。
つまり、ソ連という国は、少なくとも民族問題に対してはうまくやっていた。旧ソ連の少数民族言語の保全状況が比較的良いのは、そのためだろう。
そして、ソ連が崩壊するや、一気に民族紛争が噴出するようになった。
だからソビエトの実験が失敗したことは、実は人類にとっては非常に不幸なことでもあるといえるんです。つまり、民族を超える概念は当面、存在しない。だから民族問題も解決しない、ということになる。
本書の出版は2017年であるにもかかわらず、ウクライナ問題を取り上げているのがタイムリーだ。
また、沖縄人は日本の少数民族であり、著者自身のルーツ(の半分)でもあることから、沖縄問題についても言及している。私自身は琉球独立に賛成なのだが、1990年代なら可能だったかもしれないが、昨今の国際情勢では到底無理だし、これから状況はますます厳しくなっていくだろう。(23/02/18読了 23/02/19更新)