ルポ 大学崩壊 ★★★★☆ 田中圭太郎 ちくま文庫
まったく暗澹とした気分にさせられる。
日本のアカデミズムにおける地盤沈下は、紛れもない事実である。
例えば、国別の論文出版数は、1998年〜2000年の平均では日本は米国に次いで2位だったが、2018年〜2020年では5位に後退した。被引用回数トップ10%の論文数にいたっては、4位(1998年〜2000年)から12位(2018年〜2020年)にまで転落した。
(科学技術・学術政策研究所のサイト)
諸悪の根源は2004年の国立大学法人化、そして運営費交付金を減らし続けた文科省にある。
当時の文部大臣は、元東大総長の有馬先生だった。有馬先生は偉大な物理学者であり、俳人でもあったが、なぜこのような天下の愚策を推し進めてしまったのか。
本書はしかし、大学の本分である学問の話ではなく、大学自体が如何にして内部から自壊し始めたか…という話である。
大学の不祥事といえば、日大アメリカンフットボール部の悪質タックル事件に端を発する、田中英壽元理事長の逮捕劇が記憶に新しい。
だが、それは氷山の一角にすぎない。執行部が大学を私物化し、暴走を止められなくなるケースが相次いでいるという。
これも、2014年の学校教育法と国立大学法人法の改正(国立大学法人法は2021年にさらに改正)により、執行部の権限が強化されたためだという。しかも、大学役員のポストが文科省の天下り先になっているというから、あきれるほかない。
現在、理研の大量雇い止めが大問題になっているが、大学教職員による訴訟も頻発しているという。
文科省は、どうしてこう日本のアカデミズムを破壊するような改悪ばかりするのか、まったく理解できない。
それにしても、大学側にとっては知られたくない事例ばかりだろうが、著者はよくぞ取材を敢行したと思う。その勇気に感服する。(23/04/15読了 23/06/10更新)