読書日記 2024年

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動く遺伝子 トウモロコシとノーベル賞 ★★★★☆ エブリン・フォックス・ケラー 石館三枝子・石館康平 訳 晶文社

メンデルの法則が発表の35年後に「再発見」されたように、バーバラ・マクリントックの提唱した「動く遺伝子」の概念も、発表後20年以上経ってから「再発見」された。
彼女がすごいのは、遺伝子の実体が何かがわかっていなかったときに、トウモロコシの斑のパターンを観察することによって、帰納的に「動く遺伝子」の概念に到達したことだ。

私の染色体とのつき合いがふえればふえるほど、染色体は大きくなり、仕事が核心をついている時には、私はまさに染色体のなかに入りこんでいました。私は染色体の一部だったのです。――私は染色体と一緒に核のなかにあって、まわりのすべては大きく見えました。私には染色体の内部さえも見ることができたのです。――実際、すべてがそこにありました。本当にあたかも私がそこにいるかのように。

マクリントックは、まぎれもなく天才だった。科学史上でも稀有な存在と言えるだろう。

本書は「トウモロコシとノーベル賞」という副題がついているが、原著の出版はノーベル賞よりも前である。もっとも、原著が出版された年(1983年)にマクリントックはノーベル賞を受賞しているので、その受賞を予見していたかのようだ(邦訳は1987年刊)。

マクリントックは81歳のときにノーベル生理学・医学賞を授与され、不遇だった壮年期を帳消しにするかのように、その晩年は栄光に満ちていた。しかし、彼女にとってそんなことはどうでも良かったのかもしれない。

バーバラ・マクリントックは人生のほとんどを一人で過してきた――物理的にも、精神的にも、学問的にも。だが彼女に会ってみれば、それが充実し満たされた人生、良く生きられた人生であることを認めないわけにはいかない。おそらく、彼女の態度を最もよく表している言葉は「自己充足」である。

自己充足。「訳者あとがき」にもあるように、これこそが本書の最大のメッセージかもしれない。(24/07/21読了 24/08/03更新)

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