読書日記 2024年

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能力はどのように遺伝するのか ★★★☆☆ 安藤寿康 講談社ブルーバックス

行動遺伝学の一般向けの概説書はほとんどないので、概略を掴むのには良い。
しかし本書は、本質的な部分の説明を誤魔化しているので、読んでいて非常にストレスが溜まった。

第2章において、一卵性双生児と二卵性双生児の比較の話が出てくる。
一卵性双生児は遺伝子を100%共有しているのに対し、二卵性双生児ではその共有率は50%である。これはいい。
しかし、そうであるとき、なぜ「一卵性双生児間の相関係数が二卵性双生児間の相関係数の2倍」ならば「遺伝によって非常に強く規定されている」といえるのだろうか?この点に関して、本書では何も説明されていない。

実は、このことはまったく自明ではないし、正確でもない。
実際に言えるのは、

一卵性双生児間、二卵性双生児間の相関係数をそれぞれ rMX, rDZ とするとき、「広義の遺伝率」は近似的に 2(rMXrDZ) で与えられる

ということである。
なお、遺伝率には「広義の遺伝率」と「狭義の遺伝率」があるので、さらに混乱させられる。本書に出てくる(行動遺伝学で使われる)のは、もっぱら広義の遺伝率(=集団中の表現型の分散のうち、遺伝子型の分散の割合)のほうである。

個人的には、実際の遺伝子を用いた解析(第4章)のほうがよっぽどわかりやすいのだが、筆者はそういった方面の研究はやっていないようだ。
現在のところ、約300万人の(西欧人)サンプルを用いて、教育年数(≒IQ)に有意に相関する3952箇所のSNPsが抽出されている(Okbay et al. (2022) Nat Genet 54: 437–449)。

校正が甘いらしく、文章がおかしいところ(P.132 10行目〜)や誤植(P. 179 出典18)も散見される。(24/09/21読了 24/11/01更新)

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