読書日記 2011年

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初代竹内洋岳に聞く 聞き書き 塩野米松 アートオフィスプリズム ★★★★☆

地球上には、8000メートルを超える山が全部で14座ある。(8000メートル峰の頂は、神々の座るところであるから、敬意を表して「座」で数える。)人類で一番最初に、そのすべての頂に立つことに成功したのは、偉大なる登山家ラインホルト・メスナーであり、1986年のことであった。それ以来、20人以上が14座の完全登頂を成し遂げたが、日本人ではまだ誰も成功していない。その14座完全登頂に一番近いところにいる日本人が、竹内洋岳氏である。今年の9月30日、13座目となるチョー・オユーの無酸素登頂に成功し、あとはダウラギリを残すのみとなった。

私が持っているのは、貴重な竹内氏直筆のサイン本である。この本は540頁もあって実に分厚いのだが、竹内氏の語り口を彷彿とさせるような臨場感があって、意外に速く読める。本書は、「聞き書き」という不思議な形式によって書かれている。しかし、本書のように一人の人物を掘り下げて書く場合、果たしてこの形式がベストだったのかどうか。著者は聞き書きの名手らしいが、名もない漁師の言葉を書き留めるには適しているにしても、本書はむしろ冗長で散漫な印象を受ける。また、誤植が多いのが気になった(例:369頁、ムシャラク/ムシャラフ)。

竹内氏は、ちょっと北アルプスにでも行くような感じで、あまり気負わずにヒマラヤに行ってしまうところが良い。無酸素で8000m峰に登ることは、身体には相当なダメージがあるはずだが、重厚長大な登山隊に属して極地法で攻めるよりは、アルパインスタイルでフラッと登った方が絶対に楽しいだろう。竹内氏はまた、登山用具についても造詣が深く、その開発にも携わっている。登山用具は近年飛躍的な進化を遂げていおり、登山の世界も1995年あたりとはだいぶ様変わりしているようだ。(まぁ、私が高校生の頃には、まだキスリングが現役だったわけだし。)とすれば、あと20年も経てば、私もエベレストの頂に立てるようになっているかもしれない・・・。

日本とネパールの時差は3時間15分だとか、ヘルマン・ブールがナンガパルパットに初登頂したときは覚醒剤を打ちながら登ったとか、楽しいトリビアもたくさんちりばめられている。(11/12/03読了)

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