不可触民と現代インド 山際素男 光文社新書 ★★★☆☆
インドとカーストは切っても切れない関係にあるが、カーストの実体がどのようなものかは外国人である我々にはサッパリわからない。いくらインド人と親しくなったところで、本人の素性に関わることなので、カーストについては質問しづらい。
ヒンドゥー教徒でない人たちや、少数民族(いわゆる「指定部族」)がどのように扱われているのかも気になる。
カーストとは、西からやって来たアーリア人がドラヴィダ系の先住民を征服していく過程で、その支配体制を確固たるものにするためにつくられたという。そうであるにもかかわらず、南インドのほうがむしろヒンドゥー色が濃いように見えるのはなぜだろうか。つまり、ドラヴィダ系の人々は、なぜヒンドゥー教を受け入れ、現在もなお受け入れ続けているのだろうか?
このことは、仏教が、その発祥の地であるインドになぜ根付かなかったのか、という問題とも関連しているように思う。
本書はしかし、そのタイトルとは裏腹に、不可触民の現状に対するルポルタージュではない。
アウトカースト出身の活動家による政治的主張が、何人分か載っているにすぎない。そこから、差別にあえぐ庶民の姿は見えてこなかった。
そもそも、この本の読者は不可触民の実体を知らない部外者なのだから、彼ら活動家の主張に共感しろと言われても無理がある。
これらの活動家が、ガンディーを痛烈に批判しているのは興味深い。ガンディーは、すべてのインド国民から尊敬されているわけではないのだ。
インドの憲法は、不可触民出身のアンベートカルによって作られた。インド独立の際、イスラム教徒は分離して別の国家を作った。アンベートカルは、不可触民の国家を作ることを主張した。しかしガンディーは、それはインドを分断することになるとして頑として認めず、死を賭した断食によって断念させたという。(19/04/06読了 19/04/14更新)