読書日記 2021年

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空海入門 ひろさちや 中公文庫 ★★★☆☆

空海はなぜ、今もって、かくも人気があるのか。
西日本には、空海にまつわる史跡が至るところにある。第一、「お遍路さん」という文化が数百年にもわたって連綿と受け継がれているなんて驚異的ではないか。

私が空海に興味をもったのは、湯川秀樹の『天才とは何か』で、古今東西の天才を差し置いて、まず空海が登場するからだった。なるほど、日本の歴史上ナンバーワンの天才といえば、空海をおいて他にないかもしれない。

さて、本書であるが、まさに入門書というべき平易さである。
ただ、所々に挿入されたエピソードがやけに昭和っぽいのだが、それもそのはず、本書が出版されたのは1984年なのだ。「まえがき」には

 最近の日本人の生き方・考え方は、ものすごく窮屈であり、この傾向は強まりつづけている。
 脇目も振らずにせっせと働き、そして他人のことばかり気にしている生き方。努力、努力と強調し、階段を他人より一段でも高く昇ることばかりを考えている日本人。そんな生き方・考え方の歪みが、もうとっくの昔から教育の荒廃・家庭生活の崩壊となって現れてきているのに、いまだに気づいていない日本人である。

とあるが、21世紀も20年も過ぎた現在に比べれば、すいぶんと大らかで牧歌的な時代だったと思うのだが・・・。
この救いようのない現代において、私たちは空海の生き方からなにを学べるだろうか?(ちなみに「三密」という言葉は密教用語である。仏陀の「身(しん)・口(く)・意(い)」(身体・言語・心)のことなのだ。)

最後に、「秘蔵宝鑰」(ひぞうほうやく)の中の美しい詩を。

三界の狂人は狂せることを知らず。
四生の盲者は盲なることを識らず。
生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く、
死に死に死に死んで死の終わりに冥し。

(21/05/18読了 21/05/19更新)

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