読書日記 2021年

Home > 読書日記 > 2021年

食べ物としての動物たち ★★★★☆ 伊藤宏 講談社ブルーバックス

類書のあまりない、一般向けの畜産学の入門書。
豚(肉としての使い道しかない)、鶏(卵と肉)、牛(肉と牛乳)について科学的に解説してある。情報満載。
ただ、2001年の発行なので、データが少々古いことは致し方ない。

畜産はビジネスであり、いかにコストを削減しつつ美味しい肉や卵を作るか、という明確な目的がある。
そのために改良されたニワトリは、年に300個もの卵を産み、豚はわずか2週間で体重が2倍になる。まさにマシーンである。
産卵鶏の白色レグホーンの雄は、生まれるとすぐに処分されてペットフードなどの原料となる・・・などということが、淡々と記載されている。

江戸期以前の日本人も、野生のイノシシやウサギは食べていただろうけど、明治までの日本に畜産という文化がなかったことは不思議である。飛鳥時代には仏教とともに、「蘇」や「醍醐」といった乳製品も伝えられたが、鎌倉時代以降、消えてなくなってしまった。
したがって、日本における畜産の歴史は浅い。
鹿児島などの「黒豚」は、日本在来の品種ではなく、イギリス原産のバークシャー種のことを指す。
地鶏はどうかというと、例えば秋田の比内地鶏は、在来の比内鶏とブロイラーのロードアイランドレッド(アメリカ原産)を掛け合わせたものだ。比内鶏そのものは、江戸期に在来のニワトリとシャモを交配させて作られたもので、国の天然記念物に指定されており、食べることはできない。

黒毛和牛は、使役用だった日本在来の牛に、ヨーロッパの食用牛を掛け合わせて作られたものだ。
そうしてできた和牛に、「霜降り」という特異的な現象が生じたのは、奇跡のように思える。霜降りの脂肪の融点は25度と低く、口の中で溶け出して、ほんのりとした甘味を醸し出す。
霜降りにおける脂肪交雑(サシ)とは、筋肉に脂肪組織が入り込むことで、遺伝的に決まっている。しかし、「霜降り遺伝子」は、未だに同定されていないという。

他にも、

  • 「家」という字は、屋根の下に豚がいることを表す
  • 三元豚とは、三品種の豚を掛け合わせたもの
  • ニワトリの学名、Gallus gallusはガリア人に由来する
  • 卵の卵黄の色は餌によって決まるが、殻の色は遺伝的に決まっている
  • 但馬牛にルーツをもつ種牛の「紋次郎」は、14万頭もの黒毛和牛の父親になった
  • など、トリビアも満載。世の中には、まだまだ知らないことがたくさんある。(21/08/22読了 22/01/24更新)

    前へ   読書日記 2021年   次へ

    Copyright 2021 Yoshihito Niimura All Rights Reserved.