読書日記 2023年

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入門 東南アジア近現代史 ★★★★☆ 岩崎育夫 講談社現代新書

いま地球上で、一番元気があって希望のもてるエリアは東南アジアかもしれない。
東南アジアには11カ国があるが、ラオスと3つの小さな国(シンガポール、ブルネイ、東ティモール)を除く7カ国を訪れた結果、東南アジアに対するイメージがおぼろげながら形成されてきたような気がする。

しかし、そもそも中華世界とかインド世界のような、「東南アジア世界」というのものが存在するのだろうか。
歴史上、東南アジアで帝国と呼べるものを築いたのは、唯一、アンコール朝のカンボジアしかない。そのカンボジアは、のちに隣国タイとベトナムから国土を侵食され、国家滅亡の危機に陥ることになる。そして、第二次大戦後の度重なる戦争により、東南アジア最貧国に転落してしまった。
インドシナ半島一つとっても、仏教文化圏とはいえ、ベトナムが中華世界の一端なのに対し、カンボジア以西はデーヴァナーガリー系の文字を使っていることが示すように、インド世界の影響が強い(ただしベトナム語とクメール語は同系統)。「インドシナ」という言葉自体がフランスによって作られたものだから、植民地支配によって強引にまとめられてしまったように見える。
マレー半島と島嶼部はオーストロネシア語族の世界だが、イスラム世界の中にあって、(ミンダナオ島を除く)フィリピンのみがキリスト教を受容したのも不思議だ。ついでに言えば、ニューギニア島の東半分(イリアンジャヤ)はオセアニアに含めるべきだろう。

とはいえ、近現代史に限っていえば、それが外部世界によって規定されたものだとしても、確かに一つのまとまりがある。それはひとえに、ASEANという組織による。ASEANは、東南アジアとほぼ同義語と考えていい。
本書のキーワードは、「多様性の中の統一」である。コンパクトにまとまっているので、国ごとの通史を学んでも見えてこない東南アジア全体のイメージを掴むのには良い。
インドネシアのスハルト、シンガポールのリー・クアンユー、フィリピンのマルコス、マレーシアのマハティールなど、開発主義国家はむしろ超・長期政権になるというのは興味深い。今の中国を見ればわかるように、国民にとって重要なのは、イデオロギーや政治形態よりも経済開発なのだろう。(23/01/20読了 23/02/11更新)

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