読書日記 2023年

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アフガニスタンの診療所から ★★★★☆ 中村哲 ちくま文庫

2019年、凶弾に斃れた中村哲医師の、1992年までの活動の記録。こういう生き方は、到底真似のできるものではない。これぞ偉人というべきだろう。

中村さんは1984年、「らい(癩)根絶計画」に参加すべく、キリスト教団体からペシャワールの病院に派遣される。らいの患者は神経を侵されて痛みを感じないため、傷ができても気づかず、ひどい場合は足の裏に孔が開いてしまう。そこで中村さんは、ただ病院で診察するだけでなく、現地で手に入るものだけを使って、らい患者用の安価なサンダルを作り始める。
「国際貢献」という言葉が、いかに現場から乖離し、独りよがりに使われているか。中村さんは、このことをたびたび批判している。
「無思想・無節操・無駄」の「三無主義」がいい。どだい人間の思想などタカが知れている――この諦観に達するまでに、現場でどれほどの苦労があったかと思う。

大国の思惑に翻弄され続けたアフガニスタンの歴史は、実に過酷である。
国際社会はもはやアフガニスタンのことなど忘れてしまったかのようだが、2021年、米国による傀儡政権は瓦解し、再びタリバンが政権を掌握した。アフガニスタンは、ソ連にも米国にも負けなかった唯一の国である。

本来、アフガニスタンは美しい国だ。
中村さんがなぜこんなキナ臭い地域に行こうと思ったかというと、福岡の山岳会による遠征に参加し、ヒンドゥークシュ最高峰、ティリチ・ミール(7708m)の白く輝く頂を仰ぎ見たからだという(ただし、この山自体はパキスタン領内にある)。
アフガニスタンはインド世界とペルシア世界の折り重なるところであり、幾多の民族集団が行き交った、歴史の重層性に彩られたロマンあふれる場所なのだ。
一体いつになったら、アフガニスタンを再び自由に旅することができるようになるのだろうか。(23/01/29読了 23/02/11更新)

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