街道ををゆく41 北のまほろば ★★★★☆ 司馬遼太郎 朝日文庫
青森への旅に、本書を携えていった。
そのお陰で、旅に深みが増した。とりわけ、本書を読んでいなければ、木造駅に行ってみようなどとは夢にも思わなかっただろう。(遮光器土偶をあしらった木造駅舎)
青森といえば、太宰治の『津軽』にあるように、たびたび飢饉に見舞われる陰鬱な土地というイメージしかなかった。
しかしそれは、コメ作りが何より重要になった近世以降の話である。それ以前は、「都加留」と呼ばれた中央に従わない蝦夷の土地だったし、縄文時代にまで遡れば、いくらでも食べ物が手に入る豊穣の土地――北のまほろば――だったのだ。
その象徴とも言える(世界遺産になった)三内丸山遺跡で、巨大な木柱が発掘された(1994年)のは、まさに司馬遼太郎がこの連載を執筆中のことだった。実にタイムリーである。
青森県は、明治政府が、犬猿の中だった津軽藩と南部藩(の北半分)を強引にくっつけて作ったものである。
だが、下北半島に、「斗南藩」という藩が存在していたことはついぞ知らなかった。これは、明治維新後、会津藩が流罪のようなかたちで移住させられたもので、廃藩置県までのわずか1年半のみ存在した幻の藩なのだ。
下北半島はまだ未到なので、「イタコの口寄せ」とかいう文化が消滅する前に――もっとも、それは戦後の新しい「伝統」であるようだが――ぜひ訪れてみたいものだ。(24/05/07読了 24/12/19更新)