凍 沢木耕太郎 新潮文庫 ★★★★☆
エヴェレストとチョー・オユーの間に、ギャチュンカンというあまり有名でない山が聳えている。地球上に8000m峰は14座あるが、ギャチュンカンは標高7952m、それらに次ぐ世界第15位の高峰である。
2002年に山野井泰史は、妻の妙子とともに、北壁のバリエーション・ルートからアルパイン・スタイルでこの山の登頂を目指した。本書は、そのときの9日間にわたる壮絶な記録である。
このような冒険的なアルピニズムの世界が、現在においてもまだ存在しうることに、少なからず驚いた。
最後に少しだけ著者自身が登場するのだが、「まったく登山経験のない中年男」といいつつ、細部まで実にリアルに描写されていて、息を飲む。
山は自力で登らなければ意味がないから、ソロにこだわる気持ちはよく分かる。しかしそれにしても・・・、「現代のヒマラヤでトップクラスのクライミングをするには、狂気にも似た偏執的なモチベーションが必要だ」というのは、全くその通りだと思う。登山とは、実に不思議なスポーツである。
なお、山野井泰史のウェブサイトはこちら。(09/02/05 読了)