読書日記 2009年

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チンパンジー 中村美知夫 中公新書 ★★★☆☆

チンパンジーは、学名を Pan troglodytes という。このPanは、ギリシア神話の半人半獣の神、パンに由来する。チンパンジーには、「出来損ないの人間」のようなイメージがつきまとう。
「あとがき」にあるように、例えば、黒人をチンパンジーに喩えたという解釈が可能な場合には、人種差別的だとして問題になる。あるいは、ブッシュ前アメリカ大統領は、よくチンパンジーと比較されてきた。しかし、そのようにチンパンジーを侮蔑の対象として捉えることは、それこそチンパンジーに対して失礼である。

日本では霊長類学がメジャーであるため、チンパンジーに関する本は既に多数出版されている。従って、本書を読んでも、もはやあまりセンセーショナルな話題はない。
ただ本書の面白い点は、チンパンジーを、野生動物の生態を観察するというのではなく、文化人類学(文化霊長類学)的な視点で捉えているところである。
口絵の写真を見れば、チンパンジーが実に個性豊かな存在であることが分かる。文化人類学のフィールドワークを扱った本では、研究対象であるはずの人たちと心を通わせ合う場面が、一番感動的で面白い。科学に求められるのは一般論を導き出すことであるけれども、本書でも、個々のエピソードこそが面白いのだ。(09/07/17 読了)

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