読書日記 2009年

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知能 イアン・ディアリ 岩波書店 ★★★★☆

日本では半ばタブー視されている知能の研究に関して、今までに分かっていることがコンパクトにまとめられている。いささか教科書的ではあるが、客観的な事実が淡々と述べられているのが良い。文献もきちんと付けられていて信頼できる。ただ、翻訳がこなれていないのが難点。
なお、『IQってホントは何なんだ?知能をめぐる神話と真実』の内容はほとんど本書のパクリなので、本書を読むべきである。

本書は、知能研究で重要な11の研究を解説するという形式を取っているので、本書を読めば、心理学研究がどのようになされるのかが分かる。
そのような研究から明らかになったことは、まず、一般知能 g が存在するということである。知能テストには様々な種類があるが、それらのテストの得点は、全て互いに正に相関しており、その相関はかなり強い(r ~ 0.5)。
また、同世代の中での相対的知能水準は一生を通じてかなり安定だが、加齢によって低下する知能(流動性知能)と低下しない知能(結晶性知能)がある。脳の大きさと知能との間には、弱い相関がある。視覚的な情報処理の速さも知能と相関を示す。これらの結果はしかし、予想される範囲内のものである。

では、知能の個人差を決めるのは、遺伝だろうか、家庭環境だろうか?
双生児を用いた研究(ミネソタ研究)の示す結果は、実に驚くべきものである。一緒に育てられた一卵性双生児間と、生まれてすぐに引き離され、別々に育てられた一卵性双生児間では、知能の相関の強さに差がないのである。つまり、知能には遺伝的要因が重要であり、それ以外の個人的な独自環境もかなり影響する。しかし、しつけや教育などの家庭環境は、知能にはほとんど全く影響しないのだ!

最後に、調べたあらゆる国において、世代ごとに知能指数が上昇していくFlynn(フリン)効果について述べているが、その理由はまだ分かっていないようである。(09/07/30 読了)

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