読書日記 2009年

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共感覚—もっとも奇妙な知覚世界 ジョン・ハリソン 新曜社 ★★☆☆☆

最近は、共感覚(synesthesia)もかなりポピュラーになってきたらしく、いくつか本が出版されている。本書は、一般向けに共感覚を解説した本の中では、一番学術的な感じがする。
しかし、全体の構成も悪いし、様々なトピックを詰め込んだようでいて、教科書的な話が多くて印象に残らない。それに加えて翻訳が悲惨で、直訳調で読みにくい(翻訳は松尾香弥子)。

数ある共感覚本の中では、もはや古典といえるRichard Cytowicの『共感覚者の驚くべき日常』が依然として断然面白い。これは、翻訳者の技量の違いも多分にあるように思う。
ただ、『共感覚者の〜』は20年近くも前の本なので、科学的な記述は少々古くさい。一方、本書には、fMRIなどの実験手法に基づいた比較的新しい知見が含まれている。
とはいえ、この本の原著の出版は2001年であるから、ヒトゲノム解読後になされた遺伝学的な研究については書かれていない(そういう研究があるのかどうか知らないが)。そもそも、ヒトゲノムに含まれる遺伝子数として、7万とか10万とかいう大昔の値が使われている。

共感覚は女性に圧倒的に多く(男性の約6倍)、遺伝するらしいというのは興味深い。それを説明するために、男性で致死になる遺伝モデルを提唱しているが、これは相当に無理がある。共感覚が単一の遺伝子によって引き起こされるとは到底思えない。(09/12/18 読了)

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