狩猟サバイバル 服部文祥 みずず書店 ★★★☆☆
登山道や便利な道具や、情報がなくても、人は山に登れるのだろうか?著者は、自らの提唱する「サバイバル登山」を冬期に実践すべく、猟銃の使い方を学んだ。そして、仕留めた鹿の肉を食べながら、厳冬期の南アルプスを徘徊する。
第二次ベビーブームの真ん中に生まれ、物質的には何の不自由もなく育ったアラフォー世代。積極的に「生きている」というより、消極的に「死んでいない」と言い換えることが可能な人生。冬山や岩壁などの危ういフィールドに身をおき、「死の予感」をちりばめることで生を実感する。そうではなく、食料調達の「殺生の先」に、自分が地球の生き物の一員であることを実感と喜びを感じることができる──なるほど、なるほど。
我々の世代は、現場での体験が圧倒的に欠如している。表現欲はあるのに、語るべきものが何もない。だから著者は、語るべき現場での体験を求めて山に向かう。しかし──表現されることを前提にした登山は、もはや純粋ではない。著者は、思想家としては一流であると思うし、文章も非常に巧みである。でも、最初の著作に比べると、「やらされている感」を感じてしまい、どうしても物足りなさが残る。冒険家というものは、肉体的には衰えていくのに、過去の自分の体験を超えるためにハードルを上げ続けなければならないという宿命を背負っている。(10/09/02読了)