死刑絶対肯定論 美達大和 新潮新書 ★★★☆☆
著者は、二人の人間の生命を奪った無期懲役囚。塀の中の生活とは、どのようなものなのだろうか?
驚くべきことに、身体的な苦痛はなく、テレビやビデオの鑑賞も自由。今日も、反省しない受刑者たちの屈託ない笑い声がこだまする。安寧な生活を貪っているうち、十年十五年はあっという間だ。刑期を終えて娑婆に出てみれば、たちまち再犯を犯して、苦にもならない刑務所に戻ってくる。それもこれも、加害者の人権を擁護する<人権派>の方々の努力の賜物である。
本書は、受刑者の立場から死刑の必要性を説くという不思議な本である。私には、死刑を廃止するだけの積極的な理由を見つけることはできない。しかし、本書を読んでみても、終身刑ではなぜダメなのか、そこの部分の説明はあまり説得力を感じなかった。
こういう本が世に出ることができるのも、受刑者の人権が改善されたお陰であり、それは良いことなのかもしれない。それにしても、これほどのものを書くだけの知性を備えた人が、なぜ殺人を犯してしまったのか。その心理を知りたいが、その点については別の本に書かれているらしい。塀の中の実態を知ることができる点で本書は稀有の存在だが、後半はあまり面白くなかった。(10/10/10読了)