読書日記 2011年

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原子力ルネサンス 矢沢潔 技術評論社 ★★★☆☆

事故の3年前に出版された、原子力礼賛の書。原発だらけなのは何も日本に限ったことではなく、世界的な趨勢である。1979年のスリーマイル島、そして1986年のチェルノブイリの事故によって、各国で反原発運動が巻き起こったけれども、世界の原子力発電量は増加の一途を辿った。原子力は、その未来は暗いと思われていた時期もあったけれども、21世紀に入ると息を吹き返し、「原子力ルネサンス」というべき状況が出現する。中国やインドの経済成長を支えられるエネルギーは原子力しかない。中国では、2008年の段階で稼働している原発は11基に過ぎないが、計画中のものは141基にのぼるという。「脱原発」で有名なドイツのエネルギー政策は迷走し、大量に建設された風車は、むしろ景観と環境を破壊している。原子炉は進化して「第3世代」となり、安全性が大幅に向上した。現在、世界でウラン資源の争奪戦が起きている。日本も、世界の潮流に乗り遅れるな──。

原発推進派の論調は、誠に勇ましい。政治家は外国と競争するのが好きだから、原発を推進したくなる気持ちも分からないでもない。技術者にとっても、次世代原子炉の設計は面白い仕事であろう。けれどもこの本では、原子力の負の側面には一切触れられていない。

事故によって、世界の流れはどう変わっていくのか、それとも変わらないのだろうか?しかし、日本は外国の真似をする必要はない。いずれにせよ、今後日本の人口は減少し、超高齢化社会を迎えることになる。日本社会は緩やかに衰退してゆく運命から逃れられないのだから、もはや成長戦略にしがみつく必要はないのだ。(11/04/05読了)

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