読書日記 2012年

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ボクには世界がこう見えていた 小林和彦 新潮文庫 ★★★★☆

著者は重篤な統合失調症を患い、入退院を十回以上も繰り返している。本書は、統合失調症の患者に世界がどう見えているかを詳細に記述した、稀有の記録である。

著者が最初に「発狂」するくだりは、読んでいるほうがおかしくなりそうなほどに恐ろしい。アニメーション制作に携わっていた著者は、新たな「おニャン子アニメ」の構想を練っていた。ある日の晩、「書いても書いても頭からとめどなく言葉があふれ出し、書き尽くせない」という精神昂揚状態を経験する。数日後、目にするもの、耳に聞こえるもの、周りのすべてのものが、「意味」をもって著者の前に立ち現れるようになる。「この世界は僕のためにある」というシグナルを絶えず送り続けてくるのだ。そしてついに、「僕がこの世界を作っている」という「事実」に気付いてしまう。次の瞬間、世界は音を立てて崩れ始める・・・。

驚くべきは、著者がその当日の様子を克明に記憶していることだ。映画「ビューティフル・マインド」では、幻覚妄想が現れる様子が見事に描かれていたが、まさにその世界である。ただし、著者の場合、統合失調症と躁鬱病の中間型のような症状であり、典型的なケースではないという。

救いなのは、著者は重篤な精神疾患を患いながらも、父親や職場の同僚がずっと味方でいてくれたし、精神病院での入院生活を楽しんでさえいるように見えることだ。そしてまた、精神疾患を取り巻く状況は、ここ10年ほどで劇的に改善されたようである。(12/01/07読了 13/02/10更新)

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