不愉快な真実 中国の大国化、米国の戦略転換 孫崎享 講談社現代新書 ★★★☆☆
福沢諭吉が「脱亜論」において、「支韓両国は数年以内に亡国となり、諸外国に分割されることは疑いの余地がない。よって、支韓と伍するのを脱して西洋の文明国と進退を共にするべきである」と喝破して以来150年もの間、戦前は軍事力において、戦後は経済力において、日本の国力はずっと中国を上回っていた。けれども、近い将来中国の経済力は米国をも追い越し、超大国として君臨することになる。軍事的にも、もはや日本が中国に対抗するという選択肢はありえない。このような状況の中で、米国は東アジアにおいて、日本よりも中国を重視するようになってきている。一方の日本はといえば、経済は停滞したままであり、少子高齢化には歯止めがかからず、国力は衰える一方である。明るい話題はなにもない。まずはそれを認めた上で、では日本はどのような道を進むべきなのだろうか?
ASEANは、イスラム教、仏教、キリスト教国を含み、多様な民族・価値観を内包する共同体である。それにもかかわらず、今やASEAN諸国間で軍事衝突が起きる可能性は極めて低い。著者は、ASEANの叡智に倣って、日中韓で「東アジア共同体」を形成すべきだと説く。
中国は経済的に日本を追い越したとはいえ、それは単純に人口が多いためだ。一人あたりで考えれば、依然として貧しいままである。(一人あたりGDPがブルガリア、トルコ、メキシコ並みになれば、中国の経済力は米国を追い抜くことができる。)貧富の差・地域格差は拡大し、環境破壊は甚だしく、共産党の独裁が続く。そして国内には、政府が「核心的利益」と主張するチベット、東トルキスタンという大きな民族問題がくすぶる。そんな中国の覇権は長くは続かず、きっとどこかで破綻するに違いないと思ってしまう。
けれども、中国では伝統的に権威を重んじ、権力は「天」から授かったものとみなす。したがって、(善政を行っている限りにおいては)民主主義体制でないことは中国民衆にとって問題ではないのかもしれない。共産党が国内の不満を抑え込むためには経済成長を続けるしかなく、そのためには外国との経済的結びつきを強めるしかない。そうすると、中国は外国に対して宥和政策を取らざるを得ない。ということは、意外に中国はずっとこのままなのかもしれない。それがまさに、「不愉快な現実」なのである。(12/08/28読了 13/02/10更新)