生命世界の非対称性 黒田玲子 中公新書 ★★★☆☆
内容は到って真面目なのだか、いささか教科書的すぎて、読み物としてはあまり面白くない。まず、退屈な結晶群の話から説き起こすという構成が良くない。第5章の、分子生物学の基礎的な話も要らないと思う。しかし、類書がないため、旋光性や光学異性体について概観するには有用だった。
少し面白いと思ったのは、アミノ酸(アスパラギン酸)のラセミ化の程度を測定することで、放射性同位体の炭素14を用いるのと同様に、年代測定が可能だという話だ。その手法を用いて、カリフォルニアで発見された人骨の年代測定を行ったところ、4万8千年前という値が得られたという。現在の知見に照らせば、そんなに古いはずがないので、なにかがおかしい。そう思って調べてみたら、この手法は色々と問題があって、今日ではあまり用いられていないようである(アミノ酸年代測定法)。出版が1992年なので、内容がかなり古くなってしまっているのは致し方ない。
自然界における非対称性といえば、アミノ酸や核酸が一方のキラルしか用いていないことと、素粒子論におけるCP対称性の破れが有名である。この両者は全くスケールの異なる現象なので、なんの関係もなさそうである。しかし、弱い力の影響を考えると、L-アミノ酸のほうがわずかに安定となり、そのためL体のほうがD体よりも10-17だけ多く存在することになるのだそうだ。その差が増幅されて、L-アミノ酸からなる生命体が形成されたという。この説は、現在では否定されているのだろうか?生命体のホモキラリティーの起源については、今日でも百家争鳴の状態にあるらしく、その後の展開が気になるところだ。(14/02/18読了 14/10/13更新)