寄り道ふらふら外国語 黒田龍之助 白水社 ★★★★☆
英語に次ぐ西欧の主要言語といえば、仏・独・伊・西。これら4言語について、スラブ語の専門家である黒田先生が心の赴くままに綴ったエッセイである。各章には、「ふらふらフランス語」「いろいろイタリア語」「どきどきドイツ語」「すいすいスペイン語」という洒落たタイトルがつけられている。
著者はこれらの言語にそんなに精通しているわけではないのに、これが楽しいのである。やはり普段から色んな言語と付き合っている人は違う。
これら4言語はスラブ語圏ににおいてもメジャーなので、ベラルーシ語のレッスンを受けるときにフランス語を聞くこともあるし、スロヴェニア語について研究するにはイタリア語の知識が必要だったりする。
プラハでフランス語の入門書を開いてみれば、そこにはチェコ人から見たフランスのイメージが投影されている。チェコスロバキア時代の「東ドイツ語」の教科書や、1933年(昭和8年!)に出版されたのNHKラジオのフランス語テキストも興味深い。こういう語学の楽しみ方もあるのか、と思った。
会話だけが語学ではない。一つの作品、例えば『星の王子さま』を色んな言語で読み比べたり、ある言語を使って別の言語を勉強してみたり、複数の言語に通じている人だけに許された言語世界もあるのだ。
最近、またまた懲りずにスペイン語を勉強しているので、スペイン語について読みたくてこの本を購入したのだった。しかしあろうことか、黒田先生はこの4言語の中でも、とりわけスペイン語には造詣が浅いのであった。スペインが一番、スラブ世界から離れているからか・・・。
ところで、「南米は ブラジル以外 スペイン語」という標語が正しくないことは、スペイン語を学ぶ者は押さえておかなければならない。ブラジルを除く南米のうち、スペイン語が公用語でないのは、ギアナ高地にある3つの小さな国と地域、スリナム(公用語はオランダ語)、ガイアナ(英語)、そしてフランス領ギアナ(フランス語)である。
著者の専門であるスラブ諸語とロシア語についてふらふらした話(『チェコ語の隙間』『ロシア語の余白』)も読んでみたくなった。(15/09/27読了 15/12/19更新)