河童が覗いたインド 妹尾河童 新潮文庫 ★★★★★
世の中にインド本は数多くあれども、これが最強なのではないだろうか?
スケッチと呼ぶにはクオリティが高すぎる、精緻を極めた細密画にはただただ驚嘆するばかり。実に美しい。
本文もすべて手書きで、構図やフォントにまでこだわり抜いている。これは一個の芸術作品なのだ。
内容も楽しく、どんなガイドブックよりも印象的で秀逸なインド案内になっている。
50を過ぎたいい年をしたおじさんが、好奇心の赴くままに見て、聞いて、そして描く。
高級ホテルを泊まり歩き、タクシーをチャーターして史跡を巡るマハラジャのような旅(それでもたまに南京虫や蚊の襲撃を受ける)。それがインドだとはいわないが、でも、それもまたインドなのだ。
ホテルの部屋を上から俯瞰した絵がまた楽しい。この絵のおかげで、ウダイプールにある有名な湖上のパレスホテル(その名の通り、かつての藩王の宮殿)のスイートルームに、予約なしで5分の1の値段で泊めさせてもらえたというからすごい。
それにしても、一ヶ月半の旅を2回しても、これしか見て回ることができないのか・・・と思った。インドは、まことに広い。
本書の出版は1985年だから、随分変わったところもあるのだろうが、微塵も古さを感じさせない普遍性がある。
むしろ、椎名誠の解説に時代を感じてしまった。
バブル期まっただ中の当時、パリには、「醜く不快」で「物欲と食欲だけ」しかない「世界最悪最凶の日本人買物軍団」がいくつもいた、という。今でいう「爆買い」である。
今や日本はすっかり貧困国へと転落し、インドの貧しさを嗤う者はいなくなった。
本書の欠点は、字と絵がどちらも細かすぎて、読む(見る)のにエネルギーが要るということだ。(老眼にはつらい・・・。)大型本バージョンも出版してほしいところだ。(18/11/18読了 18/11/20更新)