読書日記 2018年

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チャールズ・ダーウィンの生涯 松永俊男 朝日新聞出版 ★★★★★

世の中にダーウィン本は多数あれど、本書はその中でも圧倒的に素晴らしい。本書と、渡辺政隆訳『種の起源』(光文社古典新訳文庫)さえ読めば、あとは何も読む必要はない・・・とさえ思う。

どの本とは言わないが、これまでに読んだダーウィン本は生物学者が書いたもので、盲目的にダーウィンを礼賛しているか、現代の知識に照らしてダーウィンを批判して鬼の首を取った気になっているかのどちらかだった。
本書はダーウィン研究の第一人者である科学史家が書いたものだけに、基本的にすべて一次資料に基づいており、資料的価値が非常に高い。
淡々と事実だけを伝えているが、記述は正確で信頼でき、かつ内容豊富で、なにより読んでいて面白い。

本書には、「進化論を生んだジェントルマンの社会」という副題がつけられている。
ダーウィンに限らず、偉人とされる人の業績を理解するためには、時代背景を理解し、その時代に身を置いてみなければならないだろう。
ダーウィンは、ヴィクトリア時代の典型的なジェントルマンだった。イギリスは階級社会であり、その上層部はケタ違いの金持ちだった。
ダーウィンは、ただの一度も労働というものをしたことがない。いわば趣味として研究を行っていたのだ。
ダーウィン家とウェッジウッド家(妻エマの実家)から受け継いだ莫大な遺産を株式投資によって運用し、充分すぎるほどの収入を得ていたという。
ちなみに、ダーウィン一族は科学者の家系であり、チャールズ・ダーウィンを中心として5世代連続で王立協会会員を輩出している。

当時のイギリス科学者の精神的基盤は、ペイリーによる『自然神学』だった。
キリスト教は反科学的であり、とりわけ進化という考え方とは相容れない。それに対し、「諸行無常、盛者必衰」が心に染みついている日本人にとっては、生物は進化するという考え方はむしろ自然だろう。
それにもかかわらず、科学としての進化論は、19世紀のイギリスで誕生した。
それは、7つの海を支配した、ヴィクトリア朝の大英帝国だからこそ可能だったのだろう。イギリスは嫌な国だが、本書を読むとその凄味がわかる気がする。

本書の目的の一つは、「巷に溢れるダーウィン神話を払拭すること」だそうだ。
例えば、「ダーウィンはガラパゴス諸島で進化論をひらめいた」「ダーウィンは創造論者としてビーグル号に乗り、進化論者としてビーグル号を下船した」はウソである。(18/11/30読了 18/12/03更新)

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