読書日記 2019年

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不可触民と現代インド 山際素男 光文社新書 ★★★☆☆

インドとカーストは切っても切れない関係にある。しかし、カーストの実体がどのようなものかは、外国人である我々にはサッパリわからない。いくらインド人と親しくなったところで、本人の素性に関わることなので、カーストについては質問しづらい。
ヒンドゥー教徒でない人たちや、少数民族(いわゆる「指定部族」)がどのように扱われているのかも気になるところだ。
カーストとは、西からやって来たアーリア人がドラヴィダ系の先住民を征服していく過程で、その支配体制を確固たるものにするために整えられていったという。そうであるにもかかわらず、南インドのほうがむしろヒンドゥー色が濃いように見えるのはなぜか。つまり、なぜドラヴィダ系の人々は、ヒンドゥー教を受け入れ、現在なおその支配体制に組み込まれ続けているのだろうか?
このことは、仏教が、その発祥の地であるインドになぜ根付かなかったのか、という問題とも関連しているように思う。

本書はしかし、そのタイトルとは裏腹に、不可触民(ダリット)の現状に対するルポルタージュではない。
不可触民出身の活動家による政治的主張が、何人分か載っているにすぎない。そこから、差別にあえぐ民衆の現在の姿は見えてこなかった。
そもそも、この本のほとんどの読者は不可触民の実体を知らない部外者なのだから、彼ら活動家の主張に共感しろと言われても無理がある。

これらの活動家が、ガンディーを痛烈に批判しているのは興味深い。ガンディーは、すべてのインド国民から尊敬されているわけではないのだ。
インドの憲法を制定したのは、不可触民出身のアンベードカルである。インドがイギリスから独立する際、イスラム教徒は分離して別の国家を作った。アンベードカルは、不可触民に対しても、分離国家を作ることを主張した。しかしガンディーは頑として認めず、死を賭した断食によって断念させたのである。(19/05/06読了 19/06/23更新)

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