ペスト カミュ 宮崎嶺雄訳 新潮文庫 ★★☆☆☆
世界各地の主要都市がロックダウンされる中、本作品が世界中で静かなブームになっているという。
人類史に大きな爪痕を残してきたペストとはいかなる病気であったのかを知りたくて、本書を繙いてみた。
一言で言うと、翻訳がいかにも翻訳調で読みづらい。本書から文体の美しさを感じることはできなかった。
訳者が書いた「解説」を読む限り、この人の文章はまったく明晰ではない。だから、この翻訳は、カミュの「彫琢された明晰な文体」を伝えているわけではなかろう。
もちろん、フランス語の原典を鑑賞できれば一番良いが、内容と同時に文体のテイストを伝えるのが翻訳者の仕事だろう。この翻訳が出版されたのは昭和44年で、もう半世紀も経つのだから、そろそろ新訳を出して欲しいものだ。
内容に関しては、ペストという病気そのものに関する記述はほとんどなかった。
序盤、ペストがひたひたと忍び寄ってきながらも、市民がその現実を受け入れようとしないあたり、今回の新型コロナを彷彿とさせる。そこに、以下の記述があるのみである。
・・・例の爺さんの患者の近所のものが鼠蹊部を押え、熱にうかされながら吐瀉しつづけた。リンパ腺は門番のよりもずっと大きくなっていた。その一つは膿が流れ始め、そして間もなく、いたんだ果物のように口をあけた。(中略)膿瘍を切開する必要がある─それは明瞭であった。メスで二すじ十文字に切ると、リンパ腺からは血のまじったどろどろの汁が流れ出た。患者たちはからだじゅう傷口だらけになって、出血していた。しかし、斑点が腹と足に現れて来、一つのリンパ腺は膿がとまったかと思うと、やがてまたはれ上ってくる。大部分の場合、患者は、すさまじい悪臭のなかで死んで行くのであった。
この小説は、<不条理な世界で連帯しようとする>市民の姿を描いているという。
が、ウンザリするほど長く、切れ目なくダラダラと続くため、毎回読みながら寝落ちしてしまった。登場人物のキャラクターもわかりにくく、ちっとも感情移入できなかった。
NHKの「100分de名著」を見ると、なるほど本作品が名著と言われる所以がわかる。
この小説には、気の利いた箴言が至る所に埋め込まれているようだ。
でも、なにしろ無駄に長いので、大事なところを読み流してしまう。この翻訳を一読しただけでカミュのファンになるのは難しそうだ。(20/06/17読了 20/07/28更新)