読書日記 2020年

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デス・ゾーン 河野啓 集英社 ★★★★☆

栗城史多とは何者だったのか。そして、彼はなぜ、死ななければならなかったのか──

後半生はネットでボコボコに叩かれていたけど、「エベレスト単独・無酸素登頂」などと戯言を言い出す前までは、彼は確かに凄かったんだと思う。
彼がまだ無名だった頃、何かの拍子に、彼が一人でニューギニアのプンチャック・ジャヤに挑む動画を見たことがある。そのときは、「世の中には面白いヤツがいるもんだ・・・」と思ったものだった。
本当に全てが単独だったかはさておき、マッキンリーやビンソン・マシフ、チョー・オユやダウラギリに登っているのは(登山家としてではなく、素人としては)十分に凄い。
彼は、生まれてくるのがあと5年くらい遅かったら、人気Youtuberとしてやっていけたのではないか。そうすれば、犬死にせずに済んだのかもしれない。

結局、彼のやっていたことは、「エベレスト教」という名の宗教だったんだと思う。
教祖である彼は、毎年、ご本尊であるエベレストの懐に抱かれにいき、瀕死の傷を負って戻ってくる。それが、信者に対する彼のパフォーマンスだったのだろう。

本書はまさに、「栗城史多とは何者だったのか。彼はなぜ、死ななければならなかったのか」という疑問に答えるための本である。最後まで一気に読ませる著者の筆力は見事だ。
だが、読み終えてなお、釈然としないものが残る。
結局、彼の人生からは、何一つも得るものはない。そしてまた、彼を死に追いやったのが彼を取り巻く大人たちだったとしても、そこからなにがしかの教訓が得られる訳でもない。
ただ、「栗城史多」という特異な人物がいた──それだけだ。(20/12/12読了 21/02/27更新)

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