読書日記 2021年

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ねじまき鳥クロニクル <第1部>〜<第3部> ★★★★☆ 村上春樹 新潮文庫

とにかく、長い。
でもこれは、これまでに読んできた村上春樹の小説の中で、一番わかり易いと思った。
いくつかの物語がパラレルに進行していくのだが、まず、一つ一つのエピソードがヴィヴィッドで印象的である。特に、第1部の終盤、間宮中尉のノモンハンでの体験(ネタバレになるので書かない)。
で、頑張って読み終えてみると、モヤモヤとした読後感が残る。本当は時間をおいて再読して、自分なりの解釈をひねり出すのがいいのだろうけれど、そんな暇もないのでネットで検索してみると、この小説の謎解きサイトがたくさん見つかる。確かにそうだよね、と思う。
これは、現代版「鬼退治」のお伽噺なのだ。
なるほど、村上春樹がイスラエルの文学賞を受賞したとき、スピーチの中で「もし、硬くて高い壁と、そこに叩きつけられている卵があったなら、私は常に卵の側に立つ」と言ったことの意味が分かったような気がする。

村上春樹の小説はいつもそうだが、主人公には丸っきり感情移入できない。だから、これを読んだところで、心が揺さぶられるということはない。
だが、シュールな登場人物と舞台設定は、まさしくアートである。小説ってこんなこともできるのか、と思った。

「加納クレタ」という奇妙な名前はどこかで聞いたことがあったな・・・と思ったら、村上春樹はまさに「加納クレタ」という題の小説を書いていた(『TVピープル』に収録されている)。
それから、『1973年のピンボール』に出てくる双子の姉妹は「208」と「209」で、これが本作品の「208号室」と符合している。探せば他にも色々ありそう。

これまで村上春樹のどこがいいのかサッパリわからなかったが、本書を読んで少し印象が変わった。
現代の日本に、ノーベル賞に値する普遍性を有している作家は、村上春樹をおいて他にないだろう。(21/10/06読了 22/01/10更新)

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