読書日記 2021年

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サガレン ★★★☆☆ 梯久美子 角川書店

サガレン(Saghalien)とはサハリン、つまり樺太のことである。
この島の南半分は、40年もの間、日本領だった。北緯50度線は、日本の歴史上で唯一、陸に引かれた国境線だった。
だからかつては、日本最北端の国境を見に行くという、ロマン溢れるツアーがあった。
林芙美子や北原白秋、宮沢賢治も、樺太を旅して紀行文を記している。宮沢賢治の樺太旅行は、『銀河鉄道の夜』のモチーフになっているという。その時代、青函連絡船に加えて、稚内-大泊を結ぶ「稚泊連絡船」があって、賢治の故郷である花巻から樺太まではひと繋がりだったのだ。

現在のサハリンについて書かれた本は、数えるほどしかない。
だから本書は、貴重な資料といえる。しかし、内容はかなりマニアックである。
前半は、寝台列車に乗ってユジノサハリンスク(豊原)からノグリキまで往復するだけの話。筆者は廃線マニアであるらしく、宮脇俊三ばりのオタクっぽい話題が続く。
後半は一転して、宮沢賢治の足跡を辿る文学的な紀行文である。しかし、引用文が多くて、著者の実体験はほとんどない。よほど想像力を逞しくしないと、現在のサハリンにかつての樺太を見出すのは難しいのだろうか。

かつて、豊原の学校の生徒はみんな、遠足で鈴谷岳(1045m、現在はチェーホフ山とかいう味気に名前になってしまっている)に登ったという。
コロナが明けたらぜひ訪れたいと思っていたのに、ロシアのウクライナ侵略によって、サハリンは名実ともに「近くて遠い場所」になってしまった。
2018年までは、稚内からコルサコフ(大泊)への定期フェリーも就航していたというのに。(21/10/27読了 24/02/09更新)

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