NATOの教訓 ★★★☆☆ グレンコ・アンドリー PHP新書
著者はウクライナ人の国際政治学者。戦争前に書かれたものだが、まるで今回の戦争を予見していたかのような内容である。まず、外国語でこれだけのものが書けるというのが凄い。
ロシア人とウクライナ人とベラルーシ人は兄弟のような民族だと思っていたから、まず今回の事態に衝撃を受けた。次に、ロシアに対して、欧米がここまで強く結束して敵愾心を露わにしたことが驚きだった。21世紀に入ってからも、アメリカはアフガニスタンやイラクに対して侵略戦争を仕掛けたし、パレスチナやシリアやイエメンで市民が殺戮されても国際社会は見捨ててきたというのに。
それは、同じ白人だからとか、キリスト教徒だからとかいうのではない。この戦争は、新・冷戦の始まりの終わりを告げるものなのだ。つまり、世界は(著者のいうところの)自由主義陣営と独裁主義陣営に再び二分され、今後数十年にわたってその状況が続くことになるのだろう。
本書は徹底して、「アメリカ礼賛・プーチン憎し」の視点で書かれている。アジアに関する記述、特に日本の国内政治に関しては首を捻りたくなる記述もある(というか、ツッコミどころしかない)ので、著者の主張をあまり真に受けてはいけない。
が、今回の戦争がヨーロッパ側からどう見えているかという点に関しては、非常に勉強になった。
意外なことに、トルコはNATOに加盟している。それには、本書に書かれているようないきさつがあったわけだ。
ウクライナのみならず、モルドバ、アルメニア、アゼルバイジャンといった旧ソ連の国々は、未だにロシアの桎梏から脱せずにいる。ナゴルノ=カラバフ紛争もロシアの罠だった。こうなってくると、キルギス、カザフスタン、タジキスタンといった中央アジアの親ロ国家の行く末が大いに心配だ。
著者は、ウクライナのゼレンスキー大統領に対しても、「ポピュリズムの結果生まれたコント芸人上がりの無能な大統領」と痛烈にコキ下ろしている。確かにゼレンスキーはピュアすぎて、政治家としての老獪さが足りなかったのだろう。
われわれから見ると、今回のウクライナ侵略はあまりに唐突だった印象があるが、ウクライナからの視点では、ある程度予想できたことだったのかもしれない。とすれば、こうなる前にもっとできることがあったのではないか・・・と思わずにはいられない。(22/03/18読了 22/04/06更新)