読書日記 2021年

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絵のある自伝 ★★★★☆ 安野光雅 文春文庫

『あいうえおの本』が好きだった。
どぎつい原色を使わない安野さんの水彩画は、筆致も色使いも優しい。安野さんの紡ぎ出す文章もまた、絵のようなぬくもりがある。どうしたらこんなに優しい文章が書けるのだろう。

安野さんは大正15年(昭和元年)、津和野生まれ。司馬遼太郎とは同世代だが、司馬さんが72歳で亡くなったのに対し、安野さんは昭和と平成という2つの時代を94歳まで生きたから、ずいぶん長生きだった。
安野さんは戦場にこそ行かなかったものの、兵隊に取られた最後の世代だった(徴兵の4か月後に敗戦)。大変な思いもしただろうが、その戦争体験の語り口すらも優しい。

面白いのは、安野さんが小学校の教師をしていたとき、その教え子の中に藤原正彦がいたということだ。
藤原正彦の『心は孤独な数学者』のあとがきは、安野さんが書いている。この本を読んだとき、なぜここで安野光雅が出てくるのだろうと思った。
「この後書きは、よほどよく読まないとわたしが彼を教えたことはわからないしかけになっている」とあるので、改めてよくよく読んでみた。なるほど、こんなところに安野さんの遊び心が隠されていたとは!でもこれ、指摘されないとまず気づかないような・・・。(21/11/22読了 22/01/10更新)

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