管見妄語 失われた美風 ★★★★☆ 藤原正彦 新潮文庫
『週刊新潮』に10年にわたって連載された名物コラムの最終巻。
藤原正彦は『若き数学者のアメリカ』以来の大ファンだったが、『国家の品格』に幻滅して読むのをやめてしまった。
しかし、久しぶりに読むと、これが実に面白いのだ。
なにより、最後の一文に収束させる構成が見事。キレのある藤原節は健在で、これを連載していたのが75歳というから驚きだ。
しかも、10年間一号も欠かさず連載を続けたという。毎週締め切りがあるというのは、実に大変なことなのだ。
とはいえ、このクオリティーを維持できるのは、日数をかけて推敲に推敲を重ねているからだという。父・新田次郎が藤原正彦に言った言葉、「獅子は兎を捕まえるときにも全力を尽くす」が心に響く。
必ずしも著者の主張すべてに同意するわけではないが、コンプラばかりやかましい昨今、言いたいことを活字にできるというのは楽しいだろう。もちろん、それには相応の責任を伴うが。
記憶力も抜群。実に濃密な人生を生きた人だと思う。(25/03/30読了 25/05/17更新)